残業禁止・ノルマなし――で、業界トップの利益率と地域No.1の給料を実現
未来工業株式会社(岐阜県・安八郡)
顧客万能の時代。今どき、顧客の満足を考えない経営者はいないと言ってもいいだろう。
「そんなことはない。顧客より社員。社員の満足を考えるのが社長の仕事だ」
こう公言してはばからない人物がいる。岐阜県にある建築用電気設備資材メーカー「未来工業株式会社」の創業者で取締相談役の山田昭男氏だ。何しろ同社のモットーは、「休め。働くな。よきに計らえ」。人より休んで、人より頑張らず、仕事は勝手に――というのだから、社員は文句の出しようがない。
残業は禁止。年間労働時間1640時間は日本の製造業で最も短く、ゴールデンウィーク、夏休みは連続10日間、年末年始休暇は連続19日に及ぶ。遅刻・早退お構いなし。営業マンにノルマはなく、会社への「ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)」も禁止。連絡の必要がないから、携帯電話も持たせないという徹底ぶりだ。営業成績も求めないから当然成果主義は採用せず、働かなくても給料が出る、今どき“珍しい”年功序列型。
にもかかわらず給料は岐阜で一番。経常利益率は製造業の平均が3〜4%の時代に10%台を維持。大手電材メーカーなど巨大企業がひしめく市場を従業員800人の会社が牽引する。主力商品のスイッチボックスはシェア8割を占める。

相談役室の壁一面に貼られた演劇の公演ポスター。日本中のその日の主な公演が分かるという。未来工業は1965年、山田氏と演劇仲間によって設立された。その経営には演劇のエッセンスが随所に盛り込まれている。「演劇は役者、舞台装置、照明がバランスしていないとうまく見えない。会社も同じ。チームワークが取れていないと回らない」(山田氏)
なぜ世間の常識とは逆の経営手法を取るのだろうか――理由は簡単だ。そのほうが儲かるからだ。
「今、日本には265万の会社があるが4000万円以上の経常利益を上げて税金を払っているのは、上位3%の8万社。97%の会社は儲かってない。みんな成果主義とかノルマとかホウレンソウとかやっている会社ばっかり。だったら逆のことをすればいい」
屁理屈のようだが、論より証拠だ。たとえばノルマ。
「うちの得意先はみなディーラーさん。そこからユーザーである工事店などに売られる。今みんな『顧客満足』というが、ノルマを定めればディーラーに売れない商品を押し込むだけになる。顧客の意見なんか聞いている暇はなくなる。その結果、売れない商品ばかりできる。だから営業マンには『売るな』と言った。ホウレンソウもムダ。だいたい仕事は現場の人間が一番分かってる。無知な上司に報告したって意味がない」

事務所の室内灯一つひとつに紐がついており、一人ひとりが管理している。使う際に本人が点け、不在にする際には本人が消すなど倹約は徹底的。一方で、モスクワのボリショイバレエなど世界中の一流アーチストを招き、隔年で無料公演を行うなどメセナにも力を入れる。「小さな倹約、大きな浪費」が経営身上。
だが商品のクレームが来たらどうするのか。しかも外回りの営業マンには携帯電話も持たせてない。
「クレームは製造業の常。クレームが入れば担当が社内の技術部と連絡をとって迅速に対応してる。営業に携帯電話は支給してないが、みな個人で持っている。自費で買えと言ってあるから」
未来工業では携帯電話をポケベル代わりに使う。顧客からの問い合わせがあると、用件を聞いた社内の女性営業担当が、外の男性営業マンの携帯電話を2回コールして切る。営業マンはその後、最寄りの電話ボックスから会社支給のテレフォンカードを使って会社に電話を入れる。つまり携帯電話通話料が一切かからない。
「それで十分対応できるんだよ。今、固定電話から携帯電話にかけると、およそ3分70円かかる。でも固定電話同士なら3分10円だよ。同じ距離を使っているのに、これだけ差がある。携帯電話を使ってみんな儲かるなら、使えばいい。でもみな儲かってない。多くの経営者はそんなことにも気づかない」
未来工業はムダ取りの徹底ぶりでも知られている。『日本一ケチな会社』としてテレビで紹介されたこともある。
社屋の廊下は常に薄暗い。「暗くても仕事に差し支えない」と消してあるからだ。社用車はすべて荷物が詰めるライトバンタイプ。社長もこのライトバンで移動する。社食のチケットも印刷代がムダと廃止、自己申告制にした。ドアのノブすら回らないようにしている。「回す手間がムダ」だからという。
だがその一方で、商品ラインナップの“ムダ”は日本一だ。主力のスイッチボックスは85種類も生産しているが、そのうち売れ筋はわずか3種類。月産400万個のうち、残りの82種全部で数千個程度。中には数十個程度しか出ないものもある。そんな調子で年間300ぐらいの新商品を送り出し、1万6000種を超える商品アイテムは現在も増殖中だ。

シェア8割のスイッチボックス。他社が4種類しか出さないのに85種類もある。業務用ケーブルカッシャーは売れ筋は10種類ほど、ラインナップは120種類。「この業界は横並びだから、結構やりやすい」とも
「たとえ1個でも、お客さんが求めるものが未来工業にあることが大事。そうすれば信用して、売れ筋の商品も買ってくれるようになる」
一見ムダに思える商品群が、未来工業の究極の顧客満足であり差別化の根幹であるのだ。
未来工業がつくる商品のほとんどは規格が法律で決まっている。別に最先端技術も必要としない。「誰でも作れるローテク商品」だ。しかも競合相手は日本を代表する企業ばかり。そこに最後発で参入した。差別化の余地などないように見えた。だが……。
ヒットしたスイッチボックスは、従来2つあったねじ穴を4つにしただけ。それだけで「柱に留めやすい」と売れた。すぐ真似されたが次は、木ねじの長さを少し長くした。「便利だ」とまた売れた。
「どんな商品でも絞れば知恵は出てくるもの。そういう知恵を出すのは社員なんだ。アホな社長が頭ひねってもタカが知れている。休みが多いのも給料が多いのもそのエサなんだ。日本人は本来農耕民族。休め、働くな、頑張るなって言っても働く。頑張るもんなんだよ」
それが証拠に21日間だった正月休みは19日間に減った。社員が音を上げたのだ。「勘弁してくれ。もう家ですることがない」と。もちろん「そんなことは未来工業だからできたんだ」という社長もいる。そんな時、山田氏は「やったことあるのか。やってから言いなさい」と反論する。
山田氏は、「社員が休んでばかりで困る」というある会社の社長に、「どれだけ休んでも給料は払う」という就業規則を提案したことがある。その社長は「ありえない」と抵抗したが、導入後「給料を引いても引いても休んでいた社員が、みな出て来るようになった」と驚きの報告をしてきたという。
「会社が社員を信じてれば、そうなるんだよ」
だがこの規則、当の未来工業では採用されなかった。社員から「会社のことを思ったらそんなことできない」と猛反対され、7日以上休むと給料から引くと決まったらしい。
「社員に不満を持たせないのが社長の役目だから、これも仕方がないが……」
社員満足度日本一の企業の創業者は、そう不満をこぼすのだった。
-2007/4/5- Text/佐藤聡

会社概要
未来工業株式会社 http://www.mirai.co.jp/
業務内容: 電気設備資材、給排水設備およびガス設備資材の製造販売
創 立:1965年
資本金:70億6,786万円
売上高:247億円(平成18年3月20日現在)
従業員:785名(平成18年3月20日現在)
名古屋証券二部上場